兵庫県ドクターヘリの「2パイロット制」を現役機長はどう見るか
2026年、ドクターヘリの世界で大きなニュースがありました。兵庫県のドクターヘリが、全国で初めて「2パイロット制」を導入するという発表です。
現役のドクターヘリ機長として、このニュースをどう見ているか。整備士が同乗することの意味も含めて、率直に書いてみます。
何が起きたのか
まず経緯を整理します。
- 兵庫県のドクターヘリは、運航会社の整備士不足が深刻化。2025年度から臨時運休が常態化していました
- 2026年7〜9月には、約3ヶ月の長期運休という異例の事態に。1ヶ月を超える運休は前例がありません
- そこで兵庫県は、通常の「操縦士+整備士」に代えて、**専門の研修を受けた操縦士をもう1名乗せる「2パイロット制」**を導入することを決定
- これは2026年3月の国の通知で臨時措置として認められたもので、全国初。2027年3月までの期間限定の運用です
操縦士不足の記事で「ヘリの人材不足」について書きましたが、操縦士だけでなく、整備士の不足も現実のものになっているということです。
整備士が同乗する意味——現場の実感
ドクターヘリには通常、操縦士・整備士・フライトドクター・フライトナースの4名が搭乗します(CRMの記事参照)。では、整備士が乗っていることには、どんな意味があるのか。
① 現場で「整備の判断」ができる
一番のメリットはこれです。たとえばランデブーポイントに着陸した後、機体に不具合が見つかったとき、その場で処置・判断ができる。
操縦士も機体のことは勉強していますが、「この状態で飛べるのか、飛べないのか」という整備的な判断は、操縦士では難しい場面があります。整備士がその場にいるかどうかは、大きな違いです。
② 飛行中のトラブルで助言がもらえる
飛行中に機体のトラブルが起きたとき、整備士から専門的な助言がもらえるのも心強い点です。機体のメンテナンス・整備に関する知識では、操縦士は整備士に敵いません。餅は餅屋、なのです。
③ 飛行前・飛行後の点検
整備士は毎日の飛行前・飛行後の点検も担っています。ここで一つ気になるのは——兵庫県のように出動が多い地域では、1日に5件以上飛ぶこともあるということです。その間、点検なしで飛行を重ねることになります。2パイロット制では、このあたりをどのように対策していくのか、注目しているポイントです。
それでも「安全性に問題はない」と考える理由
こう書くと「整備士なしで大丈夫なの?」と不安に思う方もいるかもしれません。でも、私は安全性としては問題ないと考えています。
- そもそも法律上、パイロット2名でのフライトは可能です
- 消防防災ヘリではすでに2パイロット制が導入されており、導入後に大きな事故は発生していません
そして、パイロットが2名いること自体は、安全上むしろ非常に有効です。操縦を交代できる、判断を相互にチェックできる、ワークロード(作業負荷)を分担できる——メリットはたくさんあります。
本音を言えば、重量が許すなら「パイロット2名+整備士1名」が理想です。しかし重量管理の記事で書いたとおり、ドクターヘリは医療機材と医療スタッフでギリギリの重量で飛んでいます。全員を乗せる余裕はない——だからこその選択なのです。
まとめ——この運用を注視したい
- 兵庫県ドクターヘリは整備士不足による長期運休の危機を、全国初の2パイロット制で回避へ
- 整備士の同乗には「現場での整備判断」「飛行中の助言」「日々の点検」という大きな価値がある
- 一方で、パイロット2名体制も防災ヘリでの実績があり、安全性に問題はないと考える
- 整備士不足は今後、全国的な課題になりつつある。この運用がその対策として有効なものになるか、注視していきたい
同じ空で働く仲間として、兵庫県の現場が安全に、そして一日でも早く通常の体制に戻れることを願っています。
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参考資料
※本記事は公開報道と、現役機長としての個人的な見解に基づくものです。特定の運航会社・関係者を批判する意図はありません。
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