ドクターヘリに届いた手紙|この仕事を選んでよかった
今回は、技術や制度の話ではなく、この仕事をしていて嬉しかったことを書きます。
自衛隊時代——「目立たない方が良い」仕事
自衛隊でヘリを操縦していた頃も、感謝状をいただいたり、まれにお手紙をいただいたりすることはありました。ただ、その中身を見ると災害派遣に関するものがほとんどでした。それも本当に稀で、部隊には10年前にいただいたお手紙が、今も大切に飾られていたほどです。
自衛隊の日頃の仕事は、国民の皆さんからはなかなか見えません。当時、よく言われていた言葉があります。
「自衛隊が目立って活躍しない方が、国民にとっては良いことだ」
そのとおりだと思います。自衛隊が忙しい時は、国に何か起きている時ですから。ただその一方で、自分の仕事が世間はもちろん、家族にもよく理解されていないことに、少し残念な気持ちがあったのも正直なところです。
病院の廊下で足が止まった
ドクターヘリの仕事を始めてから、ある日、病院の中に感謝状や、運ばれた患者さんからいただいたお手紙が貼られているのを見つけました。
そこには、こんな言葉が並んでいました。
「ドクターヘリで運んでもらったのは初めてだったが、意外と揺れなかった。看護師さんが優しく声をかけてくれた」
「運んでくれてありがとう。お陰様で母の容態は安定し、今も元気にお話ができます」(患者さんのご家族から)
「ドクターヘリのおかげでこの子は無事に生まれました。ありがとうございました」(切迫早産で運ばれた妊婦さんから)
読みながら、目頭が熱くなりました。
私たちが飛んだ十数分の先に、こうして回復して、話して、生まれてくる命がある。当たり前のことなのに、手紙の文字で突きつけられると、まったく違う重さで胸に届きました。この仕事を選んでよかった——心からそう思った出来事でした。
手紙は減っている。だからこそ
病院の方によると、昔に比べて手紙を送る習慣は薄れていて、実際に届くお手紙の量は年々減っているそうです。
それは時代の流れなので、仕方のないことだと思います。お手紙をいただくために飛んでいるわけでもありません。
ただ——ドクターヘリで運航すること、運ばれることを「当たり前」と思わずに、わざわざペンを取って感謝を伝えてくださる方がいる。その事実が、私たちクルーにとってどれほどの励みになるか。操縦士も、整備士も、フライトドクターもナースも、あの手紙に何度も背中を押されています。
まとめにかえて
自衛隊時代は「目立たないことが良いこと」という世界で、それはそれで誇りのある仕事でした。
ドクターヘリの仕事は、患者さんとの距離が近いぶん、感謝の言葉が直接届くことがあります。それはこの仕事の、何よりのやりがいです。
私はこの仕事が大好きです。次のフライトも、あの手紙をくれた誰かのような「その後の日常」につながるように、今日も安全に飛びます。
読んでくださっている方の中に、もしドクターヘリで運ばれた経験のある方やご家族がいらっしゃったら——あなたが元気でいてくれること、それ自体が私たちへの何よりのお手紙です。
※本記事は現役機長としての個人的な経験・所感に基づく内容です。お手紙の内容は、個人が特定されないよう趣旨を変えない範囲で表現を調整しています。
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