「お金と燃料は多い方が良い」|自衛隊時代に学んだ燃料計画の教訓
前回の記事で、先輩パイロットに言われた言葉を紹介しました。
「お金と燃料は多い方が良い」
笑い話のようですが、私はこの言葉の重みを、身をもって知ることになります。今回は、自衛隊時代に経験した「燃料計画」にまつわる話です。
自衛隊時代は日本中を飛んでいた
自衛隊のヘリパイロットだった頃は、訓練や任務で日本中を飛んでいました。時には長距離のフライトをすることもあり、燃料の搭載量には常に気をつけていました。
前回の記事でも触れたとおり、自衛隊のヘリは任務の特性上、民間のヘリよりも多くの燃料を搭載できます。それでも、長距離フライトでは燃料計画がシビアになる場面があります。
たとえば、関東の基地から四国まで飛行する場合。山を越えて最短ルートで飛べば燃料は十分ですが、海側を迂回していくと、予備燃料を確保しつつ「ちょうど」の燃料になる——そんな距離感でした。
ある冬のフライト
ある冬のこと、関東から四国までのフライト任務が入りました。
飛行計画を立てると、燃料はぴったり。ただ、気になることが2つありました。
- 冬特有の北西風が強い予報だったこと
- 内陸部はところどころ雪の天候だったこと
自衛隊のヘリには、民間ヘリよりも冬季の運航に対応できる装備があります。それでも、雪の中のフライトは危険です。私は、山越えの最短ルートを避けて、海側を迂回していくことを決めました。
つまり、「燃料ぴったり」のルートを、強風の予報の中で飛ぶ計画です。
飛行隊長の一言
出発前、当時の飛行隊長からこう言われました。
「燃料を増やして行ったほうが良いのではないか?」
計画上は足りる。でも、確かに余裕はない。私は整備士に燃料の追加搭載を依頼しました。
予報よりも強かった風
実際に飛んでみると、風は予報よりも強く、機体はなかなか前に進みません。向かい風の中では、同じ距離を飛ぶのに時間がかかり、その分燃料の消費もかさみます。
海側ルートのおかげで雪は避けられましたが、飛行時間は計画を超え、燃料が不足しそうな状況になりました。
結果的に、目的地には無事着陸。しかし、着陸したときの残燃料は、計画よりも明らかに少なくなっていました。もし出発前のままの燃料だったら——と考えると、今でも背筋が伸びます。飛行隊長の助言を聞いていたおかげで、事なきを得たフライトでした。
それでも足りなくなったら?
「もし飛行中に燃料が予想より減ってしまったら、どうするんですか?」と聞かれることがあります。
答えはシンプルで、近くの飛行場などに着陸して、給油すればいいのです。
計画外の着陸をすれば、あとで怒られるかもしれません。それでも、無理して飛び続けるよりずっと良い——これが私の考えです。燃料の残りを気にしながら、祈るように飛ぶことほど危険なことはありません。
まとめ
- 自衛隊時代、関東〜四国の長距離フライトで燃料計画の重みを学んだ
- 冬の強い向かい風は、飛行時間と燃料消費を大きく増やす
- 「計画上は足りる」と「余裕がある」は全く違う。迷ったら燃料は多く積む
- それでも足りなくなりそうなら、途中で降りて給油すればいい。怒られても、無理をするよりずっと良い
「お金と燃料は多い方が良い」——先輩の言葉は、20年近く経った今も、私の燃料計画の基本になっています。
ただし、ドクターヘリの世界に来てからは、この考え方をそのまま使えない場面に直面します。軽量な機体に医療機材とスタッフを載せると、燃料をたくさん積む余裕がないのです。この「重量管理」の話は、次回の記事で詳しく書きたいと思います。
ご質問や、皆さんの「ヒヤリとした経験」があれば、コメント欄やお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
※本記事は、自衛隊時代の個人的な経験に基づく内容です。部隊・時期・場所が特定されないよう、一部の情報は一般化して記載しています。
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